軸流ファンモーターとは?構造と原理・特性・用途を解説
軸流ファンモーターは使い勝手のよい冷却装置として、さまざまな機器類や空間に設置されています。「コンパクト化もできるシンプルな構造」「省電力で大風量」「低コストで効率的」といった長所があります。今回は軸流ファンモーターの基本情報から、構造と原理、特性や長所・注意点、用途までを幅広く解説します。
軸流ファンモーターとは
ここでは、軸流ファンモーターの定義や種類、軸流以外のファンモーターとの比較について解説します。
軸流ファンモーターの定義
軸流とは「軸方向に水平に流れること」を意味します。また、ファンモーターは機器内部の熱を外部へ排出したり、逆に外部から機器内部へ給気したりして機器内の熱処理や温度制御をおこなうための装置です。したがって、軸流ファンモーターとは、プロペラファンのような軸と同一方向に給気・排気をする機構を持つ、機器内冷却を目的にした装置ということができます。
軸流ファンモーターの種類
軸流ファンモーターの製品は多種多様で、選定する際には複数の要素を考慮する必要があります。電源は直流(DC)か交流(AC)か、外形は角形か丸形か、羽根やフレームは樹脂製か金属製か、などです。また、目的や用途によっては、以下のような軸流ファンモーターの種類を選択できます。
二重反転ファン
前後に直列した2個の軸流ファンの羽根を持つ。後段の羽根を逆回転させて直進性の高い風を送り出すことができる。静圧が高く、通風抵抗が高い装置にも有効。
耐環境ファン
特殊な環境でも適応できる軸流ファンモーター。防水や防油、耐温、耐塵、長寿命など製品の使用環境に合わせて選べる。
軸流以外のファンモーターとの比較
プロペラファンを用いる軸流式のほかに、ブロワまたはシロッコファンやラジアルファンのような遠心式があります。遠心式は羽根の側面へ排気する仕組みで、吸い込み方向と吐き出し方向が90°もしくは360°変わるファンモーターです。遠心ファンモーターは産業機器や制御盤、通信機器などでよく採用されています。軸流式より空気を送り出す性能が高いため、部品が密集した製品内部の冷却にも適しています。
軸流ファンモーターの構造と原理
ここでは軸流ファンモーターの仕組みを知るために、構造と原理について解説します。
軸流ファンモーターの構造
軸流ファンモーターはプロペラファンで風の流れを生み出す構造です。ファン全体を支える「ケーシング(フレーム)」、プロペラ(羽根)のついた「ハブ」、ハブを回転させる「モーター」で構成されています。風の流れと回転軸が同一方向であるため、コンパクトな構造にすることが可能です。
軸流ファンモーターの原理
プロペラファンが風を発生させるのは、飛行機のプロペラや船舶のスクリューが推力を得るのと同じ原理です。プロペラファンの回転によって羽根周辺の空気に作用を与え動圧(風速)が上昇します。同時に、ハブとケーシング間の環状流路の面積変化が起こって静圧も上昇します。静圧とはファンの前後にある空気の差圧のことです。静圧が高いと空気を送り出すときの抵抗に強くなります。
軸流ファンモーターは軸方向に吸い込んだ空気をそのまま軸方向に送り出すため、シロッコファン(ブロワファン)や遠心ファンのように遠心力の効果は得られません。しかし、シンプルな構造と原理であることから、小型でも比較的大きな風量を生み出すことが可能です。
軸流ファンモーターの特性
軸流ファンモーターを含め、ファンモーターの特性は風量と静圧の関係で決まります。これを「P-Q特性」といい、ファンモーターを選ぶ際の重要項目です。ここでは、P-Q特性の概要を説明し、軸流ファンモーターがどのようなP-Q特性を持つのか解説します。
P-Q特性(風量-静圧特性)とは
P-Q特性(風量-静圧特性)はファンがどのような性能を持つかを表すものです。メーカーカタログにはファンの特性を示すために、縦軸にP、横軸にQをとった曲線が掲載されています。Pが静圧(Pa)、Qが風量(m3/min)を表し、Pが最大のときにQが0に、Qが最大のときにPが0になります。P-Q特性はファンの種類によって異なりますが、同じ種類のファンでも型番やメーカーが違えば曲線に差が出るケースもあります。
P-Q特性を理解する上で重要なのが「風量はファンの回転速度に比例する」「静圧はファンの回転速度の2乗に比例する」という法則です。例えば、ファンの回転速度が2倍になると風量は2倍に、静圧は4倍になります。この法則を利用すれば現在の風量と静圧の数値から、目的のP-Q特性図を概算で求めることができます。ただし、回転速度を上げると騒音が大きくなったり、モーターの寿命が縮まったりすることにも留意しなければなりません。
軸流ファンモーターのP-Q特性
軸流ファンモーターのP-Q特性は、風量が増加するにつれて静圧が低下するという右下がりの曲線を描きます。また、風量が一定の範囲でP-Q特性の傾きが大きく変化する「旋回失速(サージング)領域」を持っているのも軸流ファンモーターの特徴といえるでしょう。
旋回失速(サージング)領域の周辺で音圧レベルが急激に下がり、消費電力が少し上がります。通風抵抗も旋回失速(サージング)領域を境に大きく変化します。したがって、ファンの動作点が旋回失速(サージング)領域外の曲線右下部分に位置するよう設計すると、騒音対策や省電力化を図ることが可能です。
軸流ファンモーターの長所
軸流ファンモーターの長所は以下のとおりです。
コンパクトで軽い
軸流ファンモーターは遠心式のファンなどに比べて構造がシンプルなため、単純な冷却目的ならコンパクトに設置することができます。部品数やサイズによっては軽量なモデルも多数あります。軸流ファンモーターは振動が少なく、振動低減の機構を備えないで済むのも軽量化につながっているポイントです。
風量が多い
軸流式のプロペラファンは、静圧が低い代わりに風量が大きいという長所があります。風量の大きさは冷却効果に直結しやすいため、機器内部の温度を素早く下げたい場合に最適です。コンパクトで風量が大きいことから、省スペース性と機能性を両立させることができます。
メンテナンスしやすい
シンプルな構造を持つ軸流ファンモーターはメンテナンス性にも優れます。給気と排気をおこなうファンにはホコリや汚れがたまりやすく、定期的な清掃が欠かせません。メンテナンスのしやすさはファンモーターの故障を防ぎ、清掃や修理にかかるコストを削減します。
軸流ファンモーターの注意点
軸流ファンモーターの注意点は以下のとおりです。
静圧の上昇が少ない
軸流ファンモーターは遠心ファンモーターと比較すると静圧が低く、ダクトや機器内の抵抗が大きいときに風を送り込もうとすると風量が著しく減少します。外部で強い風が吹くような場所では、気圧の差で給気と排気がうまくおこなわれない可能性もあります。
漏洩磁束が発生する
漏洩磁束とは、モーターの外側に漏れ出している磁束のことです。軸流ファンモーターの磁気回路設計によっては磁束が漏れ出して、センサーなど磁力の影響を受けやすい機器類の誤動作や故障の原因になることがあります。
軸流ファンモーターの用途
軸流ファンモーターは大量の空気を効率的に動かせることから、さまざまな用途で使用されています。送風による冷却だけでなく、排気ファンとして活用されることもあります。
軸流ファンモーターの用途例
- コンピュータなどの電子機器類
- データセンター
- HVACシステム
- ACコンデンサ
- 熱交換ユニット
- 産業システム
- 家電製品
- 住宅設備
- ゲーム機