ブラシレスDCモーターの特徴|構造と原理・駆動制御・用途を解説

ブラシレスDCモーターは代表的なDCモーターの1つで、ブラシを用いずに駆動制御をする構造になっています。多種多様な仕様があり、さまざまな用途に対応可能です。従来はブラシ付モーターが使われてきた製品にも、ブラシレスDCモーターが採用されるケースが増えてきました。今回はブラシレスDCモーターの構造と原理、駆動制御、特性、長所・注意点、用途を紹介します。

ブラシレスDCモーター

ブラシレスDCモーターとは

直流電源を利用して軸を回転させるDCモーターのうち、ブラシがないものをブラシレスDCモーターといいます。ブラシは整流子と組み合わせて軸を一定方向に回転させるための部品です。ブラシレスDCモーターは整流子とブラシを用いずに、電子回路で回転を制御する仕組みを持っています。

ブラシレスDCモーターの構造と原理

ブラシレスモーターの構造には以下の2つの型があります。

インナーローター型

ブラシ付DCモーターとは逆の構造で、内側に永久磁石、外側にコイルを配置しています。ブラシ付に比べてローターが小さくなるため応答が良く、繊細な制御が可能です。磁束密度の高い小型磁石を用いれば、高出力の小型モーターを実現できます。
また、磁石の装着法にも2通りあります。

アウターローター型

永久磁石を取り付けたローターが外側に、コイルを配置したステーターが内側にあります。従来のDCモーターとローター・ステーターの位置を逆にしているのが特徴です。外側のローターが回転するため安全面の配慮が必要ですが、回転の安定性に優れます。

表面磁石型(SPM)

永久磁石がローター表面に張り付けられていて、透磁率が一定です。比較的小容量の分野で用いられます。

埋込磁石型(IPM)

永久磁石がローター内部に埋め込まれています。透磁率が変化する特徴があり、リラクタンストルクを活用できます。SPMモーターより機械的な安全性に優れ、高速回転にも対応可能です。

ブラシレスDCモーターのコイル数は3の倍数で設計するのが基本です。例えば、一般的なサーボモーターだと、コイル数が9または12、永久磁石が8極(N極とS極が4セット)程度で構成されています。

ブラシレスDCモーターにはコイルの電流方向を切り替える機構、すなわちブラシと整流子がありません。代わりにインバータ回路によって電流の向きを切り替えます。マイコンなどを用いてインバータ回路を駆動させ、ステーターに電圧を印加して回転磁界を生み出す仕組みです。また、ステーターにはホールセンサやエンコーダ、レゾルバといったセンサを配置して永久磁石の位置を検出します。家電用途ではセンサレスのブラシレスDCモーターもあります。

ブラシレスDCモーターの駆動制御

電流の向きを変えるインバータ回路は、6個のトランジスタで構成されています。トランジスタはブラシと違い、寿命の問題がほとんどありません。また、インバータも含めた駆動回路(ドライバ)が、ブラシレスDCモーターの駆動制御をおこないます。

トランジスタ

モーター巻線に接続されたトランジスタは、対になるトランジスタ同士で一定の順序に従って交互にONとOFFを繰り返します。このONとOFFの繰り返しにより、巻線の電流方向を変えて回転する仕組みです。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
Tr1 ON ON ON ON
Tr2 ON ON ON ON
Tr3 ON ON ON ON
Tr4 ON ON ON ON
Tr5 ON ON ON ON
Tr6 ON ON ON ON
U相 N S S N N S S N
V相 N N S S N N S S
W相 S S N N S S N N

対になるトランジスタ:Tr1とTr4、Tr2とTr5、Tr3とTr6

ステップ1

Tr1とTr6がONになっている状態です。このとき、巻線の電流はU相からW相へ流れて、U相にN極、W相にS極が励磁されてローターが30°回転します。

ステップ2

Tr1がOFFになり、Tr2とTr6がONになっている状態です。このとき、巻線の電流はV相からW相へ流れて、V相にN極、W相にS極が励磁されてローターがさらに30°回転します。

以後、ステップ12まで各トランジスタのONとOFFを繰り返すことにより、ローターが360°回転します。

駆動回路

速度制御器

速度指令にモーターの回転速度が追従するように、電圧制御機へ電圧指令を出力する装置です。電圧司令を出す際に、速度司令と速度変換器から出力したフィードバック速度を比較します。

速度変換器

速度変換器はホールセンサ内のホールICが出力する周波数をフィードバック速度に変換します。フィードバック速度は速度制御機へと伝えられます。
3相のブラシレスモーターには3個のホールICがあり、ローター磁極のN極、S極一対に対して出力されるパルス信号は3個です。 これらのパルス信号のアップエッジとダウンエッジを検出し、6個の信号を得ます。

励磁信号発生器

励磁信号発生器は、出力回路の6個のスイッチング素子の中から、どの素子に電流を流すかを電圧制御器に指示する装置です。ホールICが出力する3つのパルス信号の組み合わせから、ローター磁極角を検出することができます。

電圧制御器

電圧制御器によって、励磁信号発生器で指示された出力回路のスイッチング素子に対して、速度制御器からの電圧司令に従った電圧を印加するよう、信号を出力回路に送ります。

出力回路(インバータ部)

出力回路は、電圧制御器から受け取った信号に従ってモーター巻線にPWM制御をおこなう装置です。内部の各トランジスタのON-OFFにより、巻線の電流方向を変えることができます。

ブラシレスDCモーターの特性

ブラシレスDCモーターの「回転速度-トルク特性」のポイントは以下のとおりです。

1)連続運転領域

連続運転で使用できる、回転速度とトルクの組み合わせの領域です。

2)短時間運転領域

短い時間(約5秒以内)だけ運転できる領域です。モーター起動時の加速トルクとして使用できます。5秒を超えると過負荷保護機能が働き、モーターが停止します。

3)定格トルク

モーターとドライバの組み合わせで連続的に出力可能な最大トルクです。

4)瞬時最大トルク

モーターとドライバの組み合わせで瞬間的に出力可能な最大トルクです。

ブラシレスDCモーターは低速から定格回転速度までの連続運転において、一定のトルクを維持することができます。また、定格トルク内であれば、負荷の大きさにかかわらず回転速度が安定する特徴があります。

ブラシレスDCモーターの長所・注意点

ブラシレスDCモーターには速度制御や構造における長所があります。一方、ブラシがないために、電流方向を切り替える装置が必要になるのが注意点です。

ブラシレスDCモーターの長所

ブラシレスDCモーターの主な長所は以下の3つです。

速度制御が安定しやすい

ブラシレスDCモーターは、低速から高速まで安定した速度で回転できるモーターです。速度制御器が速度司令と速度フィードバック信号を常に比較して、モーターへの印加電圧を調整します。

仕様の選択肢が多い

構造をインナーローター型にするかアウターローター型にするか、あるいは磁石の装着法はSPMかIPMか、どのセンサを採用するか、もしくはセンサレスにするか、というように仕様のバリエーションが豊富です。

製品の小型化・薄型化ができる

ローター部に永久磁石を使用しているため、薄型でも大きなパワーを持つブラシレスDCモーターがあります。製品のダウンサイジングを図ることも可能です。

ブラシレスDCモーターの注意点

ブラシレスDCモーターは電流方向の切り替えや、ローター位置の検出をおこなうための装置が必要です。ブラシ付DCモーターよりも制御方法が複雑になります。

インナーローター型には小型で高性能な磁石が要求されたり、アウターローター型は外径が大きくなるために製品設計上の制約で採用できないケースがあったりします。一般的に同程度のパワーを持つブラシ付DCモーターに比べて高価です。

ブラシレスDCモーターの用途

家庭ではエアコンや扇風機などの空調機器のファンを動かすモーターとして採用されます。冷蔵庫や給湯器、その他の住宅設備など、ブラシレスDCモーターの用途は広範囲です。

オフィスではプリンタやコピー機に、工場ではクリーンルームや検査・分析装置、計測機器に使われています。銀行やコンビニに設置されているATM端末でも利用されています。

自動車部品や医療機器といった安定性が求められる用途にも、高性能なブラシレスDCモーターは最適な選択です。

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