遠心(ラジアル)ファンモーターとは? 構造・原理・特性・用途を解説

遠心ファンモーターは空調機器や換気扇などの身近な用途から、集塵や粉体輸送などの産業用途まで幅広く活用されています。
今回は、遠心ファンモーターの定義や種類といった基本情報から、構造と原理、特性、用途などまで幅広く解説します。

遠心ファンモーター

遠心(ラジアル)ファンモーターとは

まず、遠心(ラジアル)ファンモーターの定義や遠心ファンの種類、遠心式送風機の種類、遠心ファンとブロワファンの違いについて解説します。

遠心ファンモーターの定義

JISの「送風機・圧縮機用語」によると、遠心送風機は「気体が羽根車を径方向に通り抜ける送風機」と定義されています。
遠心送風機すなわち遠心ファンは、羽根車の正面から吸気して径方向(回転軸に対して90°方向)に排気する装置です。

遠心ファンは背面へそのまま排気できない場合や、部品が密集した装置内部の空気を排出する場合に適しています。

ラジアルファンモーターとは

ラジアルファンとは、径向きの羽根を持つ遠心送風機のことです。ラジアル(radial:放射状の)と名が付くとおり、放射状に取り付けられた平板羽根から成っています。
ラジアルファンは遠心ファンの一種であることから、両者を同じ意味で用いることがあります。パドルファンやプレートファンも、ラジアルファンと同様に放射状の羽根を持つ送風機です。

遠心式送風機の種類

遠心ファンモーターは遠心式送風機に分類されます。遠心式には放射羽根型のラジアルファン以外にも、前曲羽根型の多翼ファン(シロッコファン)や後曲羽根型のターボファンなどがあり、これらをまとめて遠心ファンと呼ぶケースもあります。また、ブロワファンモーターを遠心ファンに含めるメーカーもあるようです。本記事はラジアルファンを話題の中心に置きつつ、多翼ファンとターボファンも遠心ファンに含めて解説します。

遠心ファンモーターとブロワファンモーターとの違い

ブロワファンモーターも遠心式で、遠心ファンと似た原理の送風機です。遠心ファンは取り込んだ空気を径方向にそのまま送り出しますが、ブロワファンは羽根車をケースで包む構造で、1箇所の吐き出し口からまとめて排気することができます。ブロワファンはピンポイントに風を吹き付けられるため、局所冷却にも用いられます。

ブロワは本来、ファンよりも強い圧力で送風する機械(圧縮機)を指す用語です。日本機械学会の機械工学辞典では、「圧力上昇が10kPa未満のものを遠心ファン、10~100kPaのものを遠心ブロワという」とされています。しかし、実際の現場では遠心ファンとブロワファンが定義どおりに区別されていないケースもあります。

遠心ファンモーターの構造と原理

ここでは遠心ファンの基本的な構造と、吸気・排気の原理を説明します。

遠心ファンの構造

遠心ファンは中心部に配置されたモーターに羽根車が付いた構造です。軸流ファンのようなフレームがなく、側面から放射状に風を吐き出します。また、遠心ファンにはインレットノズルを取り付けるのが一般的です。インレットノズルは吸引する空気の流れを整えるもので、吸い込みと吐き出しの空間を分けて空気を効率よく取り込めるようにします。

ラジアルファンは平面的な5~12枚の羽根が、放射状に羽根車へ取り付けられています。摩耗あるいは汚染した羽根の交換・清掃をおこないやすい構造です。

遠心ファンの原理

遠心ファンは遠心力を用いて、回転軸と90°曲げた方向へ吸い込んだ空気を送り出します。この遠心力は羽根車が回転することで生じます。取り込まれた空気が遠心力によってエネルギーを与えられ、速度や圧力をもって排出されるという原理です。

遠心ファンモーターの特性

ファンモーターの特性は風量と静圧の関係に依存します。メーカーカタログなどでは風量と静圧の関係が「P-Q特性」として示されていて、これが各ファンモーターの選定要素になっています。
ここでは、遠心ファンモーターの風量と静圧の特徴や、P-Q特性について解説します。

遠心ファンの風量と静圧

遠心ファンの風量は軸流ファンに比べると少ない反面、大きな静圧を生み出せるという特性があります。静圧とは空気を送り出す力のことで、静圧が大きい遠心ファンなら風が流れにくい環境でも風量を維持することが可能です。

ファンの性能は最大風量と最大静圧で決まります。最大風量は静圧が0Paのときの風量で、最大静圧は風量が0m3/minのときの静圧です。最大風量と最大静圧から、風量と静圧の関係を示すP-Q特性を求めることができます。

遠心ファンのP-Q特性

P-Q特性はP(静圧:Pa)を縦軸に、Q(風量:m3/min)を横軸にとったグラフです。遠心ファンのP-Q特性は直線に近い右下がりの曲線になります。
軸流ファンのような旋回失速領域がないため、使用可能な動作点の範囲が広いです。また、遠心ファンの消費電力曲線と音圧レベル曲線は一様ではなく、メーカーや型番で傾向が異なります。

遠心ファンモーターの長所・注意点

遠心ファンモーターの長所と注意点は、その構造や原理、特性によります。ここでは、遠心ファンの一般的な長所・注意点を説明します。

遠心ファンの長所

遠心ファンの長所には以下のようなものがあります。

高い静圧を得やすい

遠心式のラジアルファンは、半径方向に向いた羽根を持つだけの簡単な構造でありながら、圧力上昇が比較的大きい特徴があります。高い静圧で吸気・排気ができるため、空気を大きく動かせるのが長所です。大型装置内部全体の換気や、部品が密集していて通風抵抗が高い装置の排気に適しています。

吸気と排気の方向を変えられる

ファンの設置箇所や装置の部品配置によっては、ファン後方へ排気する軸流ファンを採用できないケースがあります。吸い込みと吐き出しの方向を90°変えられる遠心ファンなら、直接排気やダクトにも対応しやすいです。

遠心ファンの注意点

遠心ファンの注意点は次のとおりです。

静圧変化が風量に影響を与えることがある

遠心ファンの種類によっては、静圧の変動が風量に影響します。多翼ファンやシロッコファン、ラジアルファンは影響が大きく、静圧が上昇すると軸動力とともに風量が減少します。遠心ファンの中で静圧の影響が比較的小さいのはターボファンです。期待する効率が得られるよう、使用環境に合わせた遠心ファンを選定することが重要です。

ノイズが大きくなりやすい

ファンは可聴ノイズ(騒音)と電磁ノイズ(EMI:電磁妨害)を発生します。遠心ファンは軸流ファンに比べて、これらのノイズが大きいとされています。特にターボファンは高効率である反面、大きな騒音を出しやすいのが欠点です。ファンの設置場所を工夫したり排気口ディフューザを活用したりすることでノイズの影響を軽減できます。

遠心ファンモーターの用途

遠心ファンは排気目的で使われることが一般的ですが、種類ごとに異なった用途があります。
以下、ラジアルファン、多翼ファン、ターボファンの用途を紹介します。

ラジアルファン

産業用ラジアルファンは頑丈で交換しやすい鋼板製の羽根を持っていることから、ダスト、微粉炭、セメント、鋸屑などの固体が含まれる空気環境下で、換気や通風のために利用されます。加工物や機器類の冷却・乾燥に使われることもあります。

遠心ファンモーターと軸流ファンモーターの比較

遠心ファンと並ぶ代表的なファンモーターは軸流ファンです。どちらを採用するかは、それぞれの特性や長所・注意点を比較して決めるべきでしょう。以下、軸流ファンと遠心ファンの主な違いを表にまとめます。

遠心ファン 軸流ファン
静圧が高い 静圧が低い
風量が少ない 風量が多い
動作速度が遅い 動作速度が速い
吸気方向と排気方向が垂直 吸気方向と排気方向が同じ
導入コストが高価 導入コストが安価
騒音が大きい 騒音が小さい
電力消費が多い 電力消費が少ない

上記は遠心ファンの一般的な特性に基づいています。遠心ファンの種類、あるいは使用環境によって変わってくるケースもあるため、多角的に検討することが必要です。

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