ステッピングモーターとは? PM型とHB型の構造・原理・特性を解説

ステッピングモーターは電子機器などの駆動部分に用いられ、精密な動作を可能にする電動機です。デジタルカメラやエアコン、コピー機の駆動部品として幅広く活用されています。
今回はステッピングモーターについて、基本情報や仕組み、特性、メリット・デメリット、用途まで解説します。

ステッピングモーターとは

ステッピングモーターとは、モーター軸が連続的に回転するACモーターやDCモーターと異なり、時計の秒針を動かすように一定の回転角度で断続的に回転するモーターのことです。
ステッピングモーターの回転角度や回転速度はパルス信号によって制御されます。ステッピングモーターには構造の異なる型があり、「PM型」「VR型」「HB型」の3種類です。以下、PM型ステッピングモーター、VR型ステッピングモーター、HB型ステッピングモーターについて解説します。

PM型ステッピングモーター

回転子(ローター)が永久磁石(Permanent Magnet)で作られているタイプのステッピングモーターです。
その回転子の外周には多極の着磁がされており、その周りには磁性鉄板を加工された固定子(ステーター)が配置されています。構造がシンプルなことから、最も普及しているタイプのステッピングモーターです。

VR型ステッピングモーター

VR型はステッピングモーターの種類の1つで、永久磁石ではなくステーターの巻線電流で励磁されるものです。
ローターとステーターが多くの歯をもつこと、また、ローターとステーター間のギャップ長を短くできることによって高い分解能を実現します。
VR型は工作機械やコンピュータ周辺装置用の動力源として利用されてきましたが、小型化と大トルク化の両立が難しいことから現在では姿を消しつつあります。

HB型ステッピングモーター

HB型ステッピングモーターとは、VR型とPM型の特長を兼ね備えるステッピングモーターです。
HBはハイブリッド(hybrid)の略で、工業製品では複数の要素を共用する意味で使われます。HB型ステッピングモーターは、ステップ角を小さくできて分解能に優れるVR型の構造を利用しながら、PM型のように永久磁石を採用して高いトルクを実現しています。トルク、スピード、分解能といった各性能において高いパフォーマンスを発揮するモーターです。

ステッピングモーターの長所と注意点

ここでは、ステッピングモーターの一般的な長所と注意点を紹介します。

ステッピングモーターの長所

ステッピングモーターの主な長所は以下の4つです。

正確な位置決めが可能

ステッピングモーターの回転角度はパルス数に比例します。2相ステッピングモーターの場合、1.8°づつ動きます。

停止時の自己保持力が優れている

ステッピングモーターは、停止時に一定の電流を流すことで、保持力を発生できます。 ※通電していないときにもローター磁石の吸引力による保持トルク(ディティントトルク)があります。

高トルクを実現できる

ローターに永久磁石を採用しているので高トルク。
駆動方式や巻線仕様により、「高速・高トルク」「低速・低トルク」といったねらった速度域で高トルクとすることが可能です。

HB型なら分解能が高い

分解能とは、モーターの1回転をステップ角度で割って求められる数値のことで、1パルスあたりにモーターがきざむ回転角度を表します。
例えば1000p/revの分解能を持つ場合、モーターの1回転(360°)を1000分割できるということになります。 分解能が高くなるほどモーターの位置決め精度も良くなり、より細やかな動作制御が可能です。

ステッピングモーターの注意点

ステッピングモーターには専用の駆動回路が必要となります。
尚、駆動条件や負荷状況によってはイレギュラー状態となり、振動/騒音/脱調といった事象になることがありえます。

ステッピングモーターの用途

ステッピングモーターは、さまざまな製品の駆動機構として採用されています。特にHB型は分解能とトルクの両方を要求される用途が多いです。

電子機器

デジタルカメラ、コピー機、家庭用プリンター、ハードディスク

住宅設備

エアコン、窓シャッター

商用機器

銀行ATM、自動販売機、自動改札機、監視カメラ

製造業

ベルトコンベア、XYテーブル、搬送機械、産業用ロボット

ステッピングモーターの仕組み

一般的なステッピングモーターとして使われているPM型とHB型について、それぞれの構造と原理を解説します。

PM型ステッピングモーターの構造と原理

ここでは、PM型ステッピングモーターの構造と動作原理を解説します。

PM型ステッピングモーターの構造

中央には、多極に着磁されたローターがあり、それを取り囲むように固定子(ステーター部)が配置されています。このステーターは、磁性鉄板を加工した爪状の磁極を形成しているので、クローポールとも呼ばれています 。励磁コイルは、ボビンに円周状に巻かれており、上下2枚の固定子(ステーター)で挟み込む構造となっています。

PM型ステッピングモーターの原理

コイルステーターにある4つの極は、上下・左右で対になっています。これらのコイル電極の向きが変わるように電流を流すことで、ローターが90度ずつ回転します。ローターが回転するのは、回転方向と逆側のステーター極性の反転により磁気反発力が生じるためです。電流を制御すれば回転速度と回転方向も調整できます。また、静止状態でもローターが固定されるため、大きな静止トルクを得られます。

モーターのコイルに電流を流し、固定子(ステーター)を磁化することを励磁と言います。
この2つのA相、B相コイルに決まったシーケンスで励磁を切り替えることにより、回転子(ローター)が吸引・反発し、固定子(ステーター)の励磁変化に同期して回転します。

1相励磁

1相のみを励磁。消費電力が少なくてすみます。

2相励磁

2相を同時に励磁。消費電力は1相の2倍ですが、大きなトルクが得られます。
また減衰振動が少なく広い周波数範囲に応答可能です。一般的に最もよく用いられています。

1-2相励磁

1相励磁と2相励磁を交互に繰り返していく励磁方式です。
消費電力は、1相励磁の1.5倍になります。
ステップ角は、1相励磁と2相励磁の1/2になるためハーフステップとも呼ばれています。

HB型ステッピングモーターの構造と原理

ここでは、HB型ステッピングモーターの構造と動作原理を解説します。

HB型ステッピングモーターの構造

HB型ステッピングモーターは、円筒形の永久磁石を挟んだ2枚のローターと励磁コイルのあるステーターから成っています。それぞれのローターには*1/2ピッチ分ずれるように取り付けられた歯があります。ステーターに配置された励磁コイルの極側にもローターと同様の歯があるといった構造です。

※一般的な50枚歯のローターの場合は3.6°になる。

下図は、ローターを挟んで相対する2組のコイル(A相・B相)を持つHB型の構造を示しています。各相の2極は、通電することでN極とS極になるように結合されています。これを初期状態として、次項で動作原理を説明します。

HB型ステッピングモーターの原理

前項で示した初期状態は、A相の上極がS、下極がNです。この時点では、ローターの手前側にある白い歯(N)がA相の上極(S)に、奥側の青い歯(S)がA相の下極(N)に引かれています。ここから、コイルの通電状態を次の(1)~(5)の順に変化させることを繰り返せば、ローターが反時計方向へ連続的に回転します。(5)~(1)の順に通電して逆方向に回転させることも可能です。

(1)B相の左極がN、右極がSになるよう通電
手前側の白い歯(N)は右極(S)と、奥側の青い歯(S)は左極(N)と引き合って1/2ピッチ回転する。
(2)A相の上極がN、下極がSになるよう通電(初期状態の逆向きに通電)
手前側の白い歯(N)は下極(S)と、奥側の青い歯(S)は上極(N)と引き合って1/2ピッチ回転する。
(3)B相の左極がS、右極がNになるよう通電((1)の逆向きに通電)
手前側の白い歯(N)は左極(S)と、奥側の青い歯(S)は右極(N)と引き合って1/2ピッチ回転する。
(4)A相の上極がS、下極がNになるよう通電(初期状態と同じ)
手前側の白い歯(N)は上極(S)と、奥側の青い歯(S)は下極(N)と引き合って1/2ピッチ回転する。初期状態から1ピッチ(歯1つ分)進んだことになる。
(5)B相の左極がN、右極がSになるよう通電((1)と同じ)
手前側の白い歯(N)は右極(S)と、奥側の青い歯(S)は左極(N)と引き合って1/2ピッチ回転する。(1)の状態から1ピッチ(歯1つ分)進んだことになる。

ここで説明したのは2相タイプですが、3相タイプや5相タイプの市販品もあります。 ※相数:増→1回転あたりの分割数:増→駆動時のトルク変動:小(低振動)という関係

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