MinebeaMitsumi MEMS Room

MEMSで広がるメタバースの可能性

小型・高性能のMEMSは幅広い分野での活用が期待されており、将来的に利用範囲がさらに広がることが予想されています。そのひとつが「メタバース」市場です。ここ数年、メタバースはバズワードとしても注目を浴び、ゲーム・エンターテインメント分野のみならず、ECサイトやテレワークなど、その市場は急速に拡大しつつあります。ここではメタバースの概要や活用事例、メタバースにおけるMEMSの役割について紹介します。

メタバースとは

メタバースとは「3次元の仮想空間」を指し、超越を意味する「meta」と世界を意味する「universe」を組み合わせた造語で、1992年に刊行されたアメリカのSF小説の中で初めてその名前が登場しました。メタバースでは、自分自身の分身となる「アバター」を作成・操作することで、現実世界にいながらも、仮想空間内で自由に行動したり、他者と交流したりすることができます。つまりメタバースとは、現実世界では離れた場所にいる人たちとも、インターネット上の同じ仮想空間で社会生活を送れるコミュニティだといえます。しかし、現時点でメタバースには統一された定義がないため、コミュニティを運用しながらルールや基準、活用方法を模索している段階にあります。

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メタバースと深く関わるXR

メタバースを語る上で併せて登場する言葉にXR(X Reality/Cross Reality/Extended Reality)があります。メタバースは「仮想空間」を指していますが、XRはVR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)・SR(代替現実)といった、新しい体験を提供する技術の総称です。また、これらの技術を組み合わせたゲームやサービスなどもXRと呼びます。各用語の概要は以下のとおりです。

VR(Virtual Reality)

VRとは仮想現実のことで、ヘッドマウントディスプレイなどの専用デバイスを使って、現実世界のように仮想世界を体感できます。VR空間は現実世界とは違う完全な仮想空間のため、ゲームとの親和性も高いことからエンターテイメントの分野を中心に利用されていました。最近では旅行や職業体験など、活用の範囲が大幅に広がってきています。また仮想空間を一緒に体験できることもあり、メタバースとの相性も良いためメタバース=VRと連想されることも多くなっています。

AR(Augmented Reality)

ARとは拡張現実のことで、現実世界に仮想空間を重ね合わせて見せる技術です。例えばスマートフォンのカメラ機能を活用したアプリを起動することで、現実世界にゲームのキャラクターを登場させたり、観光名所の案内図を表示させたりすることができます。VR以上に活用が加速しており、小売業界でもアプリ上で家具を選び部屋にスマートフォンをかざすことで試し置きができるといったサービスなどは、このAR技術を活用したものです。

MR(Mixed Reality)

MRとは現実と仮想世界を融合させて見せる技術を指します。ARは現実空間に仮想的な情報を映し出すのみであるのに対し、MRでは現実世界に映しだされた仮想情報のオブジェクトを直接操作したり、複数人が同時に体験することが可能です。特に現実世界から仮想空間、仮想空間から現実世界へと双方向で影響しあうことが特徴です。また、ARはスマートフォンを使って簡単に体験できますが、MRではVRと同様に専用デバイスが必要です。

SR(Substitutional Reality)

SRとは代替現実のことで、過去に撮影した現実の映像を、現在の世界に投影するという技術です。利用者はヘッドマウントディスプレイを使用して、現実の物体と過去の物体が同時に存在するような空間で、過去の出来事が今起きているかのように体験できます。現時点(2023年2月時点)では実用化の例は少ないものの、リアルなホラー体験や心理療法、これまで以上にリアリティのある運転シミュレーターなどへの活用が考えられています。

メタバースを体験することにおいて、これらの技術すべてが必須というわけではありません。しかしXR技術を使うことで、仮想空間により没入し、現実世界とは違う新しいコミュニケーションのあり方を楽しめます。

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メタバースが注目される背景

メタバースの先駆けとなるサービスが2000年代に誕生し、日本でも一時期ブームとなりました。現在普及しつつあるメタバースと同様に、仮想空間での他者とのコミュニケーションや仮想空間内での土地の売買やビジネス活動、さらにはライブなどのイベントを楽しむことができました。
しかし当時は、ネットワークインフラが未成熟なことに加え、このサービスを楽しむには高スペックのパソコンが要求されたため、「一部の人だけが楽しめる狭い空間」でしかなく、根付くには至りませんでした。

技術革新が進んだ現在、当時のハイスペックPCに勝るとも劣らないスマートフォンを1人1台保有する時代となりました。さらに第5世代移動通信システム「5G」の普及や、ギガビットでの通信が当たり前になり、高速大容量・低遅延・多人数同時接続ができる通信インフラが整いつつあります。これにより何万人もの人がひとつの仮想空間へ同時アクセスしても耐えうる環境ができました。仮想通貨などの暗号資産の普及に加えて、コロナ禍による行動制限など、技術の進歩とともに社会情勢の変化によりメタバースの知名度と注目度が高まったといえます。

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メタバースの活用分野

ゲーム分野では大勢が同一の空間に集うプラットフォームが早くから確立されており、これまでメタバース活用の先駆的存在とされてきました。その取り組みは今やECやエンターテインメントなど、商業としても徐々に広がりを見せています。ここでは各分野での活用例を紹介します。

EC

メタバースは新たなビジネスチャンスの場として企業からも注目を集めており、メタバース上にバーチャル店舗を構える企業なども増えてきています。バーチャル店舗ではメタバース上のアイテムはもちろん、現実の商品を購入することも可能です。デパートのようにフロアを行き来しながらショッピングができるプラットフォームもあり、もはや出かけることなく現実さながらのショッピングが楽しめるようになりました。

チャット機能や店舗スタッフのアバターによる接客など、今までにないEC体験は新たな販路として企業からもユーザーからも期待されています。

エンターテインメント

コロナ禍でイベントやコンサートの中止、施設の休館が相次いだことから、エンターテインメント分野ではここ最近、メタバース活用の動きが加速しています。前述の5Gに代表される通信インフラの整備も手伝い、バーチャルライブやバーチャルミュージアムなど、インターネット上でさまざまなイベントが催されるようになりました。
例えばバーチャルコンサートでは、複数イベントの同時開催を可能とするマルチステージやファン同士のチャット機能、バーチャルミュージアムでは多言語サポートや多人数での同時鑑賞など、今までにない体験が可能です。

また、現実とメタバースの両方が密接に関わる新たな体験価値も生み出しています。例えば実在する都市が再現された空間をつくり、擬似的な観光をしたり仮想空間ならではのイベントを開催するなどの取り組みが始まっています。
このほかにも、メタバース空間で開催されたファッションショーでは、アバターに使用できるデジタルデータの衣服を配布するとともに、現実のショップで受け取り可能な衣類やアクセサリーの販売が行われました。
このようにリアルとバーチャルを横断できるのもメタバースの醍醐味といえます。

ゲーム

ゲーム分野では、早くからメタバースを活用したものが存在していました。アバターを操作し、仮想空間内で作物を育てたり、他者と交流したりするなど、現実世界と変わらない暮らしを送れる点から、こうしたゲームは「メタバースの一種」と捉えられています。
ほかにも、多人数が同時参加し、協力しながらゲームのクリアを目指す「MMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)」は、プレイヤー同士がアバターを通してコミュニケーションを取れることから、メタバース的な要素を持つとされており、市場にはメタバースに関連したさまざまなゲームが溢れています。

近年これらのゲームでは、ユーザー同士による自発的なイベントが行われるなどゲームの枠にとどまらない利用が活発化し、新たな注目を集めています。

新たなビジネスの展開

メタバースは、EC・エンターテインメント・ゲームなど今まで存在していた市場をさらに拡大させるだけでなく、自宅にいながらの観光やバーチャルオフィスなど、今まで想像し得なかったまったく新しい体験を生み出しました。
メタバース空間での取引においても、ブロックチェーン技術の進歩により「暗号通貨/仮想通貨」や「NFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)」の活用が進み、その安全性は強まりつつあります。これにより、メタバースは独自の経済圏をもった空間としての価値を高め、今後もさまざまなビジネスの可能性が期待されています。

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メタバースへの没入感を高めるデバイス

ヘッドマウントディスプレイをはじめとしたXRデバイスを使用することで、メタバース空間への没入感を高め、より快適な体験の手助けとなります。一方で現在市場に出回っているXRデバイスの多くは、大きい、重い、VR酔いを起こしやすいなどの問題点があることも事実です。この問題を解決するためにMEMS技術に注目が集まっています。

より使いやすいXRデバイスへ

XRデバイスには、ゴーグルタイプのヘッドマウントディスプレイ以外に、メガネ型のウェアラブルデバイスなどがあります。より快適に、より使いやすくするため、VR・MRで使われるヘッドマウントディスプレイなどのデバイスは小型軽量化が進み、ARではメガネ型のウェアラブルデバイスの研究が進んでいます。

こうしたデバイスの小型化に、半導体の製造技術を応用したMEMS技術が多く活用されています。MEMSを採用することでセンサーの小型化や、新たな機能の追加が可能になります。
例えば従来のVR・MRを楽しむために必要だった外部センサーをなくし、本体に内蔵することで軽く小型なデバイスが誕生しました。また従来はVR・AR・MRを楽しむには、それぞれ専用のデバイスが必要でした。しかし、一つのヘッドセットで複数のXR世界を楽しめるものも登場しています。これもMEMS活用による恩恵だといえます。

人の五感を再現するセンサー

メタバースへの没入感をさらに高めるため、五感を再現するセンサーの開発も進められています。本物さながらの触覚刺激を伝えるグローブは、メタバースだけでなく、現実世界における障がいのある人や宇宙飛行士のサポートなど幅広い可能性を秘めています。
また、視覚・聴覚・触覚だけでなく、味覚や嗅覚に関する研究も進み、現実にかなり近いレベルで再現できるセンサーも登場してきました。こうしたセンサーにおいても、小型で高感度なMEMSが重要な役割を担っており、なくてはならないものとなっています。

人間の五感を再現するセンサーはメタバースはもちろん、さまざまな産業分野での応用が期待されており、MEMSの重要度も今後ますます高まっていくことでしょう。

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メタバースとMEMSの今後

2021年10月、Facebook社が社名を「Meta Platforms」に変更したことは、世界で大きな話題となりました。Meta社のみならず、企業も自治体も「新たな世界の構築」に熱い視線を注いでおり、メタバースへの参入やメタバースに関連した研究開発は加速の傾向にあります。

メタバースが「もう一つの現実」となり、より広く発展していくためには、それを支えるデバイスや技術の進歩が必要不可欠です。メタバースを体験するための機器にMEMS技術を活用する例も増えており、デバイスの小型化・高性能化などに貢献しています。今後メタバースに関する機器の更なる進化・発展をするために、MEMSが果たす役割はさらに大きくなっていくと考えられます。

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