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これからの医療・介護とMEMS

近年の医療・介護業界における世界的な課題として、人口構造の変化や急激に進む都市化に伴う医療費の増加があります。一方で医師や看護師、介護の担い手が足りないといった人手不足の問題も挙げられています。こうした課題を解決する手段として、IoTをはじめとしたICT技術(情報通信技術)を使用した医療DXに注目と期待が集まっています。ここでは、医療・介護業界における課題解決のための手段と、そこで活用されるMEMS技術について解説します。

医療・介護業界が抱える課題

2022年11月に世界人口は80億人を超え、2030年には85億人に達する見込みです。
人口増加の著しい地域として、これまでは、中国・インドでの人口増加が注目されてきましたが、今後はアフリカでの急激な人口増加が予想されています。また、これらの地域では経済発展が進むにつれ、急速に都市化が進んでおり今後も続くとされています。

人口増加と都市化という大きな変化を迎える国々では、さまざまな課題も挙がっており、医療に関しても例外ではありません。国が豊かになったことで医療の充実が図られ、利用者の数が増えるとともに医療費の増加や医療に携わる人員不足といった問題が叫ばれています。

1950年から2050年にかけての地域別の都市部に居住する人口の割合

出典: United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2018). World Urbanization Prospects: The 2018 Revision, Online Edition.
Licence: CC BY 3.0 IGO

一方で先進国では医療の発達による平均寿命の伸びから、高齢化社会を迎えています。世界的にも、2000年では10%未満だった60歳以上の人口割合が、2020年以降急激に増加し2050年には14歳以下の20.7%を超え、22%に達するとされています。少子高齢化による人口構造の変化もまた、医療費をはじめとした社会保障費の増加や、医療・介護に携わる人員不足といった問題を引き起こしています。

出典:United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2022). World Population Prospects 2022, Online Edition.
Licence: CC BY 3.0 IGO

こうした問題を解決する手段として注目を集めるのが予防医療と医療DXです。予防医療はそもそも病気にならないような健康状態の維持を目的としており、日常的な体調の変化を観察することが必要です。また、結果をデータとして蓄積することで、病気の早期発見・早期治療を実現し、さらに再発の防止や重篤化の予防が可能となります。このような予防医療・医療DXの取り組みには、さまざまなセンシング技術が活用されています。

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医療・介護業界とMEMSセンサー

医療・介護業界が抱えるさまざまな問題を解決する手段として、医療DXの発展が必要とされています。また、医療DXを実現するためには医療機器の普及が必要であり、こうした医療機器の普及を支える技術としてMEMSが注目されています。ここでは、医療DXの概要を説明するとともに、これからの医療を支えるMEMSデバイスの活用事例を紹介します。

医療DXを実現する機器

医療業界においては、先述の通り予防医療も重要です。利用者の疫病を予防し、より効果的・効率的に健康増進を図るためには、迅速なデータ収集や解析・分析が求められます。
これらの実現には、患者の健康状態を把握するためにICTといった適切な技術を導入する、すなわち医療DXを推進する必要があり、さまざまな技術改革が進んでいます。

例えば体内音を聞くための聴診器は、MEMSマイクを搭載したデジタル聴診器の登場により、従来は医師が聞くしかなかった心音なども録音・再生が可能となりました。これまで記録に残せなかった「音」の情報が残せるようになったことで、パソコンのモニターなどに結果を表示できるようになり、診断精度を向上させるとともに、情報の共有もスムーズに行えるようになるなど、医療DXの実現に役立てられています。

分散型医療を支える医療機器

従来の検査機器は大型かつ非常に高価なため、取り扱える医療機関が限られていました。しかしMEMSを活用することで小型・量産化が可能になり、小規模な診療所や病院でも導入が可能となりつつあります。

例えば、肺機能の検査に使われるスパイロメーターは、機器が大きく看護師による補助がないと使用できませんでした。しかし、MEMS技術を活用した小型のスパイロメーターが登場したことで、家庭での検査も可能となりました。取得したデータはインターネットを活用することで主治医と連携でき、病気の早期発見にもつながります。このように以前は一部の医療機関でしか受けられなかった検査や診察も、分散型医療により身近になり始めています。

他にも、糖尿病の治療法として開発されたインスリンポンプ療法では、従来のインスリン注射に変わって、携帯型医療用ポンプを使用します。ポンプはさまざまなMEMSセンサーにより制御されており、患者は数日に1回ポンプにつながった針を刺すだけで、安定したインスリン投与を行うことができます。これにより、個人の負担を軽減するだけでなく、注射の打ち忘れや急激な血糖値の低下といったリスクを下げることも可能になりました。このように、分散型医療は一人ひとりのQOL(Quality of Life)を高めることにも役立っています。

また、分散型医療は専門医のいない地方や僻地での活用にも期待が持たれており、AIを使った解析機能を持つ検査機器などの開発も行われています。こうした治療や検査を可能とするには、医療機器の普及が必要不可欠であり、小型・量産化を担う技術としてMEMSは分散型医療の発展に大きな役割を果たしています。

高度なセンシングによる負担軽減

介護業界では、介護スタッフの負担を軽減するため、高度なセンシング技術による見守りが実施されており、利用者の身体の異常を検知するセンサーシステムなどが活用されています。

例えば圧力センサーをベッドに取り付けることで、利用者の心拍数や呼吸の分析ができたり、利用者に超音波センサーを装着し膀胱の形状を測定することで排泄サイクルを予測して知らせたりすることができます。これにより介護スタッフの見守り・巡回などでの負担軽減・効率化につながり、課題である人手不足の解消に役立てられています。

また、こうしたセンサーには介護スタッフの負担軽減だけではなく、利用者の快適な使用感も求められます。利用者の行動や身体への負担を和らげるためにも、介護機器の開発におけるMEMS技術の活用は重要になってくることでしょう。

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医療・介護現場のこれからとMEMSの今後

MEMS技術は近年、医療・介護業界においてもさまざまな研究開発が進められています。
低侵襲の治療や検査では、内視鏡やカテーテルの先で細胞レベルの治療や検査を実施できるようになったり、非侵襲の分野では小型の超音波プローブを用いた検査が実現したりと、大掛かりな装置を必要としていた検査・測定も、MEMS技術を用いた医療機器の登場により、これまで以上に身近になりつつあります。

さらに今後期待されている分野に、介護ロボットや医療ロボットの存在があり、ここでも細かな作業を可能にするほか、人では気づけないような小さな変化の察知などにMEMS技術の活用の研究が進められています。

すでに医療・介護現場において、MEMSを活用した機器の存在は不可欠なものになっており、今後さらなる発展とともに需要の拡大が期待されます。

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