FA機器業界におけるMEMSの活用
さらなる生産性の向上・コスト削減・環境負荷の低減などを目指して、FA業界ではスマートファクトリー化の流れが加速しています。効率化のためには、デジタル化によるデータ解析が不可欠となっており、そのデータを取得するためにはセンサーは不可欠な存在になっています。
またAIの活用によって、これまで難しいと考えられていた故障予測や、ロボットの自律制御回路などにおいてもセンサーが重要な役割を果たしており、高精度なMEMSセンサーが担う役割は大きくなると予測されています。
FA機器に活用されるMEMSセンサーの種類と役割
FA機器が使用される工場では、製品の品質チェックや製造する機器などで、さまざまなセンサーが使われています。すべてのセンサーがMEMS技術を使用したものではありませんが、活用の範囲が広がりをみせています。例えば工場内の空調管理にはMEMSフローセンサーが使用され快適な労働環境を整えたり、不具合を起こさないために利用されています。
他にも製造ラインでは、産業用ロボットにMEMS6軸力覚センサーや圧力センサー、さらに安全を守るためのIRセンサーなどが活用されています。
スマートファクトリーに関わるMEMSセンサー
工場では目的に応じて、さまざまなセンサーが使用されています。圧力・力覚・画像などのセンシングによるプロセスの制御をしたり、設備が発する振動や音などを検知して故障を未然に防いだりと、さまざまな用途でセンサーが役立てられています。
工場で働く人たちの安全を守るためにガスセンサーやLiDARなど、安心して仕事ができる環境づくりにもさまざまなセンサーが貢献しています。
また、センサーを使った生産プロセスの管理や工場を可視化することを「スマートファクトリー化」といい、従来活用しきれていなかったセンサーが取得した情報をもとに、工程改善や生産性の向上を図っています。
スマートファクトリーの実現には、従来よりもきめ細かく正確な情報が必要になります。各種センサーを使い工場内のさまざまな情報を取得してデータを解析することで、必要な対策を講じることができ、今ある課題の解決や効率的な製造を実現します。世界市場を狙う製造業ではさらなる競争力が求められており、今後、センサーが果たす役割はさらに大きくなるといえます。
空気の流れを管理するMEMSセンサー
製品や部品の製造では、空気や液体の流れを管理する工程があり、そこでは各種フローセンサーが活躍しています。
MEMSフローセンサーの一種であるMEMS風向センサーは、空気中の微細な埃や細菌などを持ち込ませないようクリーンルームで使用されたり、環境温度の管理が必要な製造工程において、空気の流れや温度分布の管理に使われたりしています。
このようにMEMSフローセンサーで風を可視化することによって、製品の不良の原因となる埃を防ぎ、工場内・工程内の環境を一定にすることで質の高い製品の製造や、快適な職場環境の実現などにも役立てられています。
人の安全を守るMEMSセンサー
工場では人の安全を守るためにさまざまなセンサーが用いられています。例えば危険を検知するセンサーとして、ガスセンサーや人が危険エリアに入ると機械を停止させる光学式センサーなどがあります。
有害なガスを検知するMEMSセンサー
MEMSガスセンサーは、人が気づくことのできない気体の濃度を検知し、規定値を超えた際にはアラートを鳴らして危険を知らせてくれます。
このようなMEMSセンサーによる検知も重要ですが、工場や現場の安全を守るためMEMSセンサーだけでなく、用途に応じて従来型のセンサーと併用することも重要です。
無人輸送機などに使われているMEMSデバイス
工場内で使用されている無人搬送車(AGV)には、カメラやIRセンサー、LiDARなどが搭載されています。このうちIRセンサーとLiDARにMEMSデバイスが使用され、周囲の障害物や作業者との距離を計測しながら自走し、それらとの衝突を防止しています。
高度な自動化を行うMEMSセンサー
工場ではさまざまなロボットによる自動化が進んでいますが、従来ロボットによる作業は決められた定型作業を行うことしかできませんでした。しかし、MEMSデバイスを活用することでより高度な自動化を行うことができます。
エアシリンダーやグリッパーに使われているMEMSセンサー
工場内や工程で物をつかむ(把持)動作には、コンプレッサーによる圧縮空気を用いる場合と、モーターのような磁気回路を使う場合があります。これまでの製造工程では、圧縮空気を用いたグリッパーが多用されていました。しかし、空気を使用するエアシリンダーでは、グリッパーを開けるか閉じるかしかできず、微妙な力加減での把持はできませんでした。
MEMSセンサーを使用することで細かな制御が可能になり、人が行っていたような柔らかい物を掴んで仕分けるといった作業も、ロボットが代わりに実施することも可能となります。
また、一般的に工場で使用されているコンプレッサーは大型で、設備も大がかりになるため、圧縮空気を用いたものではなく電動グリッパーがより活用されるようになってきています。
さらに小型の電動真空ポンプと圧力センサーを使用した、吸着型のロボットハンド(エンドエフェクター)も登場しています。
FA機器業界で活用されるミネベアミツミのMEMSデバイス
ミネベアミツミは、長年FA業界向けにベアリングをはじめ、冷却用ファンやモーター、電源など、多岐にわたる製品を提供しています。近年ではこれらに加え、MEMS圧力センサーやMEMS力覚センサーなどの開発・製造も手掛けており、MEMS技術によって作られた各種デバイスは、今後さらなる需要の広がりが予測されています。
人の感覚をロボットで再現する「小型6軸力覚センサー」
FA機器における力覚センサーはロボットの手首などに搭載され、さまざまな力感覚を与えています。
ミネベアミツミでは、ロボットハンドやグリッパーへの適用を目的に小型6軸力覚センサーを開発しました。
MEMS技術を活用することで、Φ9.6mm×9mmの超小型力覚センサーを実現し、これまでロボットの手首部分にしか取り付けられていなかった6軸センサーが、指先にも搭載できるようになりました。
指先に搭載することで、把持対象物に対しダイレクトにセンシングできるため、掴んだ物体の位置に対し、どの程度の力が作用しているか細かく検知できます。
小型化したことで生産設備の一部としての活用が可能となり、機器や製造工程での振動や力覚を検知できます。従来、人の感覚に頼っていた工程も数値によるデータ化ができるようになり、業務の改善や効率化に役立ちます。
工場内の空気の流れを制御する「フローセンサー」
フローセンサーは流量や風速を見える化します。空気の流れがわかれば、工場内の環境を快適にするだけでなく、製造ラインへの不要な埃の侵入を防ぐこともできます。
ミネベアミツミのMEMSフローセンサーは⊿Σ型ADコンバータを内蔵し、MEMSの中央部にはヒーターを配置しています。ヒーターを温めることで発生する温度分布の変化量を電圧に変換して、データをデジタル出力します。
わずかな風の流れも検知して機器の制御に役立てられるため、必要な風量だけの使用に止め、省エネを図ることが可能です。
さまざまな圧力を測る「圧力センサー」
FA業界におけるMEMS圧力センサーの活用方法には、工場内で使用される機器の空気圧(ガス圧)・油圧などを管理し、測定した情報を基に適切な機器動作に役立てるというものがあります。
また、ロボットハンドの中には圧力を活用した「吸着型」の機器もあり、MEMS圧力センサーによって細かな制御が可能となり、把持対象の製品を傷つけることなく扱うことができます。
ミネベアミツミの圧力センサーは上記のような使用法をはじめ、さまざまな用途やFA機器で活用されています。